歌うメッセンジャーの綿引ゆうです。
ポップスのボーカルの方で、「ジャズって何?」って思っている方は多いと思います。
使っているコードが違うとか、着ている服が違うとか、そういうところは、目に見えるのでわかりやすいですね。
ですが、ポップスとジャズでは、基本的な概念が違うのです。
ポップスとジャズの違いを、ボーカルの目線でお話ししてみたいと思います。
もくじ
ジャズは「笑点」みたいなもの
ジャズでは、「スタンダード」と呼ばれる決まったお題があり、それを自分だったらどのように演奏するかというものを追求していきます。
例えば、「Fly me to the moon」という、スタンダード曲があります。
Frank Sinatra (4ビート)
この曲を、たくさんのジャズボーカルが歌うわけです。
例えば、次のような感じです。
ドリス・デイ(ゆったりしたボサノバ)
Julie London (早めのボサノバ)
Anita O’Day(ワルツから始まり、次のコーラスではリズムチェンジして、4ビート)
このように、曲調、テンポなど、すべて自分でイメージして、どう表現するかが重要になります。
ですので、楽譜通りに歌うことはあまり重要視されません。
ポップスで言われる「コピー」とは、全く違う概念だということです。
「コピーバンド」とは、オリジナルを忠実に演奏するバンドのことです。オリジナルが「正」であり、それから少しでも外れればダメなわけです。
しかし、ジャズには同じ曲を歌う時、コピーという概念がありません。だから、どんな風に歌おうとも間違いではないのです。
例えば、先ほどご紹介した幾つかの「Fly me to the moon」は、一つの素晴らしいお手本みたいなものです。
テレビ番組の「笑点」みたいなものだと思ってください。
笑点では、司会者があるお題を出すと、解答者が「はい!」って手をあげて、自分なりの解釈でお題に対する答えを出していきます。
解答者は落語家さんなので、基本的には話のうまさ、面白さを競い合うものです。ですが、一番の見所は、「解答者ごとのキャラクターの違い」です。
「その人ならどう答えるか」という、それぞれのキャラクター性が出た解答が出てくるので、その対比が面白く、視聴者を惹きつけるのです。
このように、スタンダードというお題に対して、「私ならこう歌う!」という表現するのがジャズです。
歌のうまさ、声の美しさで人を魅了するだけでは足りません。「その人らしさ」がそこにないといけないのです。
ジャズスタンダードには「型」がある
そして、ジャズスタンダードには「型」のような決まった形があります。基本的な流れをまとめると、以下のようになります。
イントロ → テーマ → アドリブ(各楽器)×任意の数 → テーマ → エンディング
最初に「テーマ」を演奏し、次にいろんな楽器が代わる代わるアドリブしていきます。その後、テーマをもう一度演奏し、エンディングとなります。
Chet Baker Quartet の「 Summertime」という曲を例にして、説明していきます。以下の動画の再生ボタンを押して曲を聞いてみてください。
イントロ(0:00〜0:06 )
前奏の部分です。
テーマ(0:06〜0:29 )
主題となる旋律のことです。
イントロのあと、必ず1コーラスこの「テーマ」が演奏されます。
この「Summertime」のテーマを楽譜でみてみると、次のようになります。
16小節の曲です。
「今回のお題はこの曲だよ」と、皆に知らせている部分です。
ジャズでは、オリジナルのメロディーを即興的に変化させて演奏します。これを「フェイク」と言います。
「お題」をわかりやすく知らせるため、ここではフェイクは多用せず、しっかりとオリジナルメロディーを聞かせます。
次のコーラスから、アドリブのトランペットソロが始まります。(0:29〜1:42)
ここでは、これでもかとフェイクしていますので、テーマとの違いを聴き比べてみてください。
アドリブ(0:29〜3:37 )
アドリブとは、即興で演奏する部分のことです。アドリブは、テーマと同じコード(和音)、小節数で演奏されます。ですので、アドリブの小節数はテーマと同じ16小節になります。
通常は、テーマのみ書かれた楽譜で演奏されます。
ですが、今回は、説明のため、わかりやすいように以下のようにアドリブ部分の楽譜を作りました。
テーマと、コード、小節数が全く同じになっているのがわかると思います。
ここでは、テーマを崩したフェイク、コードを元にして即興的にメロディー演奏をしていきます。
テーマから離れた聞いたことがないメロディーが演奏されるため、ぼんやりしていると、今、どこを演奏しているのか、何をやっているかわからなくなってしまいます。
そんな時は、アドリブはテーマと小節数が同じということを思い出してください。
心の中でテーマを歌っておくと、今何コーラス目のどこを演奏しているかを数えることができます。
そして、アドリブでは、ソロ(主旋律)をとる楽器が次々と変わっていきます。
0:29〜1:42 トランペットソロ 3コーラス
1:43〜2:27 ピアノソロ 2コーラス
2:28〜3:14 ベースソロ 2コーラス
3:15〜3:37 トランペットソロ 1コーラス
こんな風に、各楽器は任意の回数、ソロを演奏していきます。この回数は特に決まっていないので、この部分がとても長くなることもあります。
再びテーマ(3:38〜4:00)
アドリブは放っておくと繰り返されて、永遠に続いてしまいます。
頃合いを見て、最初にテーマを演奏した人が再びテーマを演奏します。
これには、これがラストコーラスであることを、メンバーやお客さんに伝える役割があります。
エンディング(4:00〜)
曲の終わりの部分。
「歌もの」の場合
これまでは、一般的なジャズの型についてお話ししてきました。
その中でも「歌もの」と呼ばれるボーカルが入っているジャズは、他とは違う特徴があります。
イントロ → テーマ(ボーカル) → アドリブ(楽器)→ テーマ(ボーカル) → エンディング
基本的な順番は同じですが、楽器のアドリブを各楽器で回すことはありません。そして、一つの楽器のソロは、1コーラス程度と短めになります。
Nat King Cole 「Love」
こちらの動画、Nat King Cole の「Love」のように、アップテンポの曲では、全部で3コーラス
(テーマ ボーカル1コーラス → アドリブ 楽器1コーラス→ テーマ ボーカル1コーラス)
バラードの時は長いので、全部で2コーラス
(テーマ ボーカル1コーラス → 2コーラス目の前半を楽器のアドリブ、後半をボーカルが歌う)
とするパターンが多いです。
バンドとの関係性
ポップスとジャズでは、ボーカルとバンドの関係性が、明らかに違います。わかりやすくいうと、以下のようになります。
ポップス・・・・ボーカルが主役、その他の楽器は脇役。
ジャズ・・・・・バンドメンバー、みんなが主役。ボーカルは声という楽器の中の一つ。
決して、ポップスのボーカルがメンバーを大事にしていないという意味ではありません。ですが、ジャズボーカルの楽器メンバーへのリスペクトの度合いは、ポップスの比ではないと感じます。
ここからは、その理由についてお話していきます。
楽器のソロが長いから
先ほどお伝えしたように、ジャズの歌ものでは楽器ソロが短いです。ですが、それでも1コーラス(バラードなどはハーフコーラス)演奏されます。
一般的なポップスでは、間奏がないこともあるし、あったとしても4〜8小節程度です。1コーラスまるまる演奏されることは、ほぼありません。つまり、曲を演奏する上で楽器のウエイトが高いということです。
私の感覚としては、歌とその他の楽器ソロの割合が、
・ポップス 歌9:楽器1
・ジャズ 歌6:楽器4
このくらいは違います。
なので、楽器の演奏次第で、全体の出来栄えが変わってしまうんです。
ボーカルはいつも、メンバーの様子に気を配っています。メンバーがソロを気持ちよく演奏できるように、それぞれのソロの終わりには「Yeah!」と掛け声をかけて、ボーカルが率先して場を盛り上げます。
ポップスよりも、楽器への依存度が高いのがジャズなのです。
独創性が高いから
先ほど、ジャズは自分だったらどう演奏するかの表現だとお話ししました。
これが正解というものがないため、同じ曲を演奏しても、演奏者の数だけ表現があるということになります。
このため、メンバーが一人変わるだけで、全く違う音楽になってしまいます。
だから、「自分の理想の音楽を作るためには、どうしてもこのメンバーで演奏しなきゃダメ」となるわけです。
ボーカルはお飾り?
これはとても残念なことなのですが・・・・
ボーカルさんの中には、ほぼジャズや楽器の知識がなく歌っている方もいます。
音楽の基礎を知らなくても、演奏できるのはボーカルくらいなものです。
楽器は、基礎や音楽理論の勉強なしで演奏することはできません。よって、演奏技術を習得するまでの時間は、ボーカルの何十倍もかかります。
それなのに、スポットが当たり、お客様の注目を浴びるのがボーカルです。そんなボーカルを冷ややかに見ている楽器の方も、少なからずいらっしゃるのです。
ある楽器の方が、
「ボーカルはお飾りだから」
と仲間内で話しているのを、偶然聞いてしまったことがありました。
誰のことを言っているのかわかりませんが、私は、それがとても悔しかったのです。
それから、楽器の方に認めてもらえるよう、精一杯の努力をしようと決めました。先ほどお話しした、「私ならどう歌いたいか」を的確に伝えられるようになって、半端な気持ちで歌ってるわけじゃないことを、示したいと思いました。
そのためには、楽器のことを理解しなきゃいけないと思い、他のボーカルさんとバンドのやりとりをこっそり観察しました。
「これは絶対にしてはいけない」「これは好感度アップする」「こういう時はこうすればいい」など、間近で勉強させてもらいました。
それでも、
「そんな説明じゃわからない、これじゃ演奏できない!」
と言われたこともあります。
「楽器の方が演奏しやすい楽譜はどんなものか?」
「指示はどのタイミングで、どのように出せばいいのか?」
試行錯誤して、わからなければ、どうすればいいか直接尋ねることもありました。
そうしていくことで、少しずつですが「自分のバンドで歌って」と、声をかけてもらえる機会が増えて行きました。
これは、ポップスでも同様だと思いますが、ボーカルとしての役割を果たし、楽器のメンバーに認められることが、自分の活動を広げることにつながります。
まとめ
(これ、私です!!)
ポップスとジャズの違いを、ボーカル目線でお話ししました。
ポップスとジャズでは、基本的な概念が違います。
・ジャズは「私はこう歌いたいという表現」である。
・ジャズには型がある。
・ジャズはバンドメンバーみんなが主役。ボーカルは声という楽器の中の一つ。
こんな目線でジャズを聞いてみると、新たな発見があるかもしれません。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。